聞こえてきた会話から、
その人たちの店に前の晩、某関取が来たことが判明した。
(安美錦関ではない。十両の力士)
その関取には、自分たちがどこに座るか伝えてあったらしく、
土俵入りのとき、その関取が自分たちのほうを全然見ないので、
「明らかに無視しとる! 感じ悪い!!」と、文句を言っていた。
(そりゃ、そうだろ!)
親方や付け人さんたちも一緒に店に来たらしく、
その関取の付け人さんが出入口にいるのを見つけて、
「あ、ほら、あの子、昨日の子よ。二十歳の子。かわいかったねぇ」と言って、
はしゃいでいた。
お酒が入って、ほろ酔い気分のホステスさんたち、
ひそひそ話のつもりが普通の声のトーンになっていて、
会話が周囲に筒抜けだった。
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力士は、タニマチさんとの付き合いなどあるから、飲みに出る機会も多いだろう。
どこに耳や目があり、尾ひれや背ひれの付いた醜聞につながるかわからない。
君子でなくても危うきに近寄らないのが一番である。
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