2017年5月14日日曜日

悲しい話

仕返しをする人の心理が理解できない。

自分の考えややり方を否定されたり、嫌な思いをすると、同じことを相手にもする。

ときには仕返しをされる筋合いではないことでもするのだから、溜まったもんじゃない。

職場で、金曜日に難しい内容の問い合わせがあり、誰も答えがわからなかった。

専門部署に聞いてもダメだった。

それで、その道のプロと言われる2年前に異動した男性に電話してみてはどうかかとタクミンが言った。

冗談か本気かわからず、とりあえず同意したが実際には電話しなかった。

しかし、タクミンは、その人は知識と経験があり私が信頼していることが気に入らないらしい。

その件をひとまず保留にして通常業務に戻ると、しばらくしてタクミンが、
「この帳票の綴じ方、今度からこうして。前任者(上記プロ)のやり方は全部廃止して俺方式にしてやる」と言って意地悪く笑った。

私はカチンときて頬を膨らませた。

しかしそれは、前任者のやり方をやめることに腹が立ったのではなく、タクミンの負担を減らそうとして手作ってるのにダメ出しされたからだ。

それをタクミンは、私が前任者のやり方を変えることが気に入らないと勘違いしたらしい。

私が返事をしないでいると、「新入社員の子(女)って英語がしゃべれるって本当なん?」と聞いてきた。

「そうなん? 知らない」と答えると、続けて、「今度外国人が来たら対応してもらおう」とタクミン。

その子の指導をしている女性社員も英会話教室に通っていると言おうかどうしようか迷って黙っていると、
さらに「昨日来た外国人さんくらい日本語がしゃべれたら、俺も対応できるけど」と言う。

「・・・・・・」
「ほら、学校で先生してる、たまに来る人」

私が対応したアメリカ人男性だ。
いつもカタコトの日本語を駆使して一生懸命伝えようとする姿勢に好感が持てる。
だから私も、その人が聞き取りやすいようにゆっくり丁寧に話し、焦らせないように笑顔で対応する。

特別な感情はない。親切心だ。
なのにタクミンは、私がちょっと男性客と親しげに楽しく会話すると、すぐチクッと嫌味を言ったり、自分も女性客や女性社員と親しげに話す。

めんどくさくなった私は「知らない」と突き放した。

しかし、タクミンはまだ食いついてくる。
「箱を買って、外国に送ってたじゃん」

「わからない。興味がない」

覚えてないわけないのに知らぬ存ぜぬを繰り返し、明らかに不機嫌になった私に満足したのか焦ったのかわからないが、それからは何も言わなかった。

私はうんざりして、帰るまで口をきかなかった。

その後ロッカーを出て階段を降りていると、事務所の前にいるタクミンの姿が見えた。

私は誰かに電話をしているフリをした。
そして玄関を出てドアが閉まらないうちに、聞こえるように声を大きくして
「帰るまで一言も口をきかなかったのよ、よっぽど相性悪いんだと思う」と言った。

半分、本心である。
お互いが気持ちの探り合いをし、一向に関係が進まない。
結ばれるべき相手なら、トントン拍子に進んでいくし、相手の気持ちを疑うこともないだろう。
相性が悪い縁がないと思うようになるのも当然だ。

しかし、いちいち仕返しをされたのではたまらない。仕事にならない。
やめてくれと言ったところで、やめないだろう。

いったいどうしてほしいのか?

少し前から、タクミンとは一度ちゃんと話をしたほうがいいんじゃないかと思い始めた。
タクミンが異動するまで長くてあと3年。
3年もこの状態が続けるのはしんどい。

それにタクミンのためにも良くない。
理由こそ違えど、タクミンは気に入らないと誰に対しても仕返しをする。

たとえ上司に対しても。
そのせいで、課長から次から次へと仕事を与えられ、地味に嫌がらせを受けている。
課長もタクミンと似たタイプで、昨年度までいた支店長と報復合戦を繰り広げていた。
支店長に対してするくらいなので、況んや部下に対してをや、である。

タクミンは要領が悪く仕事が遅い。
だから、いつまでも一つの仕事が終わらない。
終わらないうちに課長から次の仕事を与えられる。
精神的に追い込まれイライラするタクミンを見て、課長はほくそ笑む。
その仕返しをタクミンが課長にし、再び課長から仕事が与えられ、そうして課長との報復合戦は続いている。

自分で自分の首を締めているのがわからないのだろうか?

私は気が長くてお人好しで、好きな相手のすることは大抵のことは我慢する。
ただ、我慢が限界に達したり、他に好きな人ができると、あっさり手のひらを返す。

今はヤキモチを妬いたり不機嫌になって、タクミンに自信と安心を与えて、タクミンも調子に乗っているが、私の気持ちが変わったら、見向きもしなくなることを彼はわかっていない。

憎しみや嫌悪感など特別な感情が一切なくなる。
その人が生きようが死のうが知ったこっちゃない。

あんなに好きだった洋服屋の2代目も今は全く興味がない。
追いかけてこなくなったら逆に追いかけるようになるのは男女の常で、2代目は少し前からちょくちょく私の職場にやってくるようになった。
指輪をしていたり、女性客と親しげに話したり、私の気を引こうとするが私は最早2代目に特別な感情がない。
一般のお客様と同じである。
見ず知らずの一般客が誰と何をしようが何とも思わないのは当然。
ただ平然と過ごす。

純粋な人間ほど残酷な生き物はないのだ。

タクミンも今はまだ私の気持ちがタクミンに向いているから調子に乗っていられるが、心変わりしたら、そうはいかない。

少し前に伝えたんだけどな。

「私は、人を嫌いになることは滅多にない。
いやなことをされても、『どうしてそんな風に思うんだろう?』って理解しようとする。
嫌いになることはあんまりないけど、興味がなくなる。
どうでもいい人になる。
嫌いになった場合は手がつけられない。
気持ちを割りきることができないから、仕事だろうが何だろうが関係なしに露骨に嫌悪な態度をとる。
頭ではわかってるんだけど、どうすることもできない」

私は警告のつもりだったんだけどな。

そして昨日、ちょっと話をしたほうがいいかなと思いメールしたが、無視。
『話がある』と言うと重くなるので、車で出掛けようと誘った。

これまでの経験で判断すると、金曜日(実は木曜日も)夕方以降、口をきかなかったことに対する報復である。
無視されたので、無視し返す。

最近は私もわかっていて、無視するか断ると想定して誘っている。
だから、メールを送るだけ送って返事を待たずに、買い物に行ったりドライブに出掛けた。

タクミンは『ざまあみろ』と思ってるかもしれないが、あいにく私は痛くも痒くもない。
もうタクミンに何の期待もしていない。
自分の仕事に支障が出なければ、それでいい。
一人で勝手に喜んでてくれ。
いつまでも根に持って、いつまでも私のことを覚えていればいい。
覚えていてくれて、ありがとう。

愛情の反対は無関心という。

タクミンのような人にとって、一番怖いのは忘れ去られること。

ごめんね。

タクミンのこと、心から愛して信じてたけど。
これからの人生を二人で一緒に歩いていきたいと思ったけど。

いつか私はタクミンのこと全部わすれるはず。

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